AIで自動化できる業務一覧
― 部門別の具体例と判断基準
AI導入が進まない理由の多くは、ツールの性能ではなく対象業務の選び方にあります。向く業務・向かない業務を分ける条件と、部門別の具体例をまとめました。
1. AIに向く業務を分ける4つの条件
業務名だけを見てAI適性を判断することはできません。同じ「見積書作成」でも、テンプレートに数値を埋める作業と、条件を交渉しながら組み立てる作業では性質がまったく違います。次の4条件で見てください。
| # | 条件 | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|---|
| 1 | 作業の型が決まっているか | 手順が説明できる。人が変わっても同じ結果になる | その都度やり方が変わる。担当者の勘に依存する |
| 2 | 必要な情報が文章・数値・画像として存在するか | メール、書類、システムの画面にある | 会話・雰囲気・場の空気から読み取る必要がある |
| 3 | 間違えたときに取り返しがつくか | 人が確認してから確定する工程がある | 誤りが即座に法的・金銭的な損害になる |
| 4 | 判断の基準を言葉にできるか | 「◯◯なら△△」と書き出せる | 説明できない判断が中心にある |
この4つが揃うほど、AIで置き換えられる範囲は広くなります。1つでも大きく外れる場合は、業務全体ではなく工程を分けて考えてください。「情報を集める」「下書きを作る」「確認する」「送る」に分ければ、前半だけがAIに向く、というケースは非常に多いです。
2. 代替可能性スコアの考え方
実務では、業務ごとに「どれくらいAIで代替できるか」を100点満点でスコア化すると比較しやすくなります。私たちが診断で用いている考え方は次のとおりです。
| スコア帯 | 意味 | 典型例 | 打ち手 |
|---|---|---|---|
| 80–100 | 大部分をAIに任せられる | データ転記、定型文書の作成、議事録の整形 | 手順をパッケージ化して展開。効果が出やすい |
| 60–79 | 下書きまでAI、確認は人 | 提案書の初稿、問い合わせ返信案、要約 | 支援型で導入。確認工程を設計する |
| 40–59 | 一部の工程のみ | 調査・情報収集を含む業務 | 工程を分解し、前半だけを対象にする |
| 20–39 | 補助的にとどまる | 社内調整、複雑な例外対応 | 当面は対象外。時間が長ければ工程分解を検討 |
| 0–19 | 人がやるべき | 商談、面談、最終意思決定 | 対象外。ここを削ろうとしない |
スコアだけで着手順を決めないでください。判断すべきは スコア × その業務に使っている時間 です。スコア90でも月2時間の業務なら、削減できるのは月1.8時間。スコア60でも月40時間使っていれば、24時間が視野に入ります。詳しくは6章で説明します。
3. 部門別・AIで自動化できる業務一覧
以下はAIが効きやすい業務の代表例です。スコアは典型的なケースの目安であり、実際の値は自社の業務の型・例外の多さ・扱う情報の所在によって変わります。
営業・営業事務
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 見積書の作成・転記・送付 | 85 | テンプレートへの値の埋め込み、記載内容のチェック、送付文の作成 |
| 見込み客リストの整備・名寄せ | 84 | 表記ゆれの統合、重複排除、企業情報の補完、分類 |
| 商談メモから議事録・報告書を作成 | 82 | メモの構造化、決定事項と次アクションの抽出、CRMへの入力用に整形 |
| 提案書のたたき台作成 | 72 | 過去案件の構成を踏まえた初稿の生成。最終調整は人 |
| フォローメールの作成 | 70 | 商談内容に応じた文面の下書き。送信判断は人 |
| 顧客との商談・関係構築 | 24 | 準備資料の作成まで。商談そのものは対象外 |
経理・財務
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 請求書・領収書の内容読み取りと入力 | 88 | 記載内容の抽出、勘定科目の候補提示、システム入力用データの生成 |
| 経費精算の一次チェック | 80 | 規程との突合、不備の指摘、差戻し理由文の作成 |
| 月次レポートのコメント作成 | 75 | 数値の変動要因の記述、前月比較の文章化 |
| 取引先からの問い合わせ対応(定型) | 68 | 過去の回答と規程を踏まえた返信案の作成 |
| 決算の最終確認・承認 | 15 | 対象外。責任を伴う判断は人が行う |
人事・総務
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 求人票・募集要項の作成 | 80 | 職務要件の文章化、過去の求人からの展開、媒体ごとの書き分け |
| 社内規程に関する問い合わせ対応 | 78 | 規程を参照した回答の生成。判断が必要な例外は人へエスカレーション |
| 研修資料・マニュアルの作成 | 76 | 既存資料からの構成生成、更新箇所の反映 |
| 応募書類の一次整理 | 55 | 記載情報の整理・要約まで。合否判断には使わない |
| 面接・評価面談 | 10 | 対象外 |
カスタマーサポート
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 問い合わせ内容の分類・振り分け | 86 | 種別判定、優先度の付与、担当への割り当て |
| 定型問い合わせへの回答案作成 | 80 | FAQ・過去対応を踏まえた返信案。送信前に人が確認 |
| 対応履歴の要約・タグ付け | 84 | 要約、原因分類、再発防止のための集計用タグ付け |
| FAQ・ヘルプ記事の作成と更新 | 75 | 問い合わせ傾向からの記事案生成、既存記事の更新提案 |
| クレームの一次対応 | 30 | 状況整理と論点抽出まで。応対そのものは人 |
マーケティング・広報
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 広告文・見出しの案出し | 82 | 訴求軸ごとの複数案生成。選定と検証は人 |
| 記事・資料の構成案作成 | 78 | 検索意図の整理、見出し構成、参照すべき論点の洗い出し |
| レポートの数値まとめ | 76 | データの集計結果の文章化、前期比較のコメント |
| SNS投稿文の作成 | 72 | 元コンテンツからの派生投稿の作成 |
| ブランド方針・戦略の決定 | 18 | 対象外 |
情報システム・開発
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 社内からのIT問い合わせ対応 | 80 | 手順書を参照した回答、切り分け手順の提示 |
| 仕様書・設計書の記述 | 70 | 構成の生成、既存コードからの記述、記載漏れの指摘 |
| 機能実装・コーディング | 60 | 実装の下書き、テストコード生成。レビューは人 |
| 障害の原因調査 | 45 | ログの要約、仮説の列挙まで。切り分け判断は人 |
| セキュリティ方針の決定 | 15 | 対象外 |
製造・物流・購買
| 業務 | スコア目安 | AIに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 発注書・納品書の読み取りと入力 | 86 | 帳票からの項目抽出、システム投入用データの生成 |
| 在庫・納期に関する問い合わせ回答 | 74 | システムの数値を踏まえた回答文の作成 |
| 日報・作業報告の集計 | 80 | 報告テキストの構造化、異常値の指摘、集計表への反映 |
| 仕入先との価格交渉 | 20 | 比較資料の作成まで。交渉は人 |
4. AIに向かない業務
一覧の下位に共通しているのは、次の性質です。これらを無理に対象にすると、導入は失敗します。
- 対人の信頼関係が価値の中心にある業務 — 商談、面談、クレームの応対。効率化の対象は準備工程であって、対話そのものではありません
- 責任の所在が問われる最終決定 — 決算の承認、採用の合否、セキュリティ方針。AIは材料を作れますが、決めるのは人です
- 暗黙知に依存する調整 — 部門間の利害調整、社内の力学を踏まえた根回し。基準が言語化できないため型に落ちません
- 例外が大半を占める業務 — 例外率が5割を超える業務は、例外処理の作り込みコストが削減効果を上回りがちです
「減らすべきでない時間」を削らないでください。商談や1on1の時間が減ることは、多くの場合、成果の悪化を意味します。効果測定の分母に入れると削減率が小さく見えるため、対象業務は最初から絞り込んで測るのが正しい進め方です。
5. 「自動化」と「支援」を分けて考える
AI導入の議論は、しばしば「完全自動化できるか」に引っ張られます。しかし実務で成果が出やすいのは、圧倒的に支援型です。
| 自動化 | 支援 | |
|---|---|---|
| 形 | 人が介在せず完了する | AIが下書き・候補を作り、人が確認して完了する |
| 必要な精度 | 非常に高い(誤りがそのまま流れる) | 中程度でよい(人が直せる) |
| 立ち上げ | 例外処理の作り込みに時間がかかる | 手順とプロンプトの整備で始められる |
| 削減できる時間 | ほぼ全量 | 作業時間の5〜7割程度 |
| 失敗しやすい点 | 精度不足で結局すべて人が確認する | 確認工程が形骸化して品質が落ちる |
順序としては、まず支援型で時間を削り、精度と例外の傾向が見えてから自動化の範囲を広げるのが現実的です。最初から完全自動化を目指すと、例外処理の設計に数ヶ月を費やして、その間の削減効果はゼロになります。
6. 着手する順番の決め方
優先順位は、次の式で決めます。
具体例で比べます。
| 業務 | 月間時間 | スコア | 削減見込み | 判断 |
|---|---|---|---|---|
| 議事録の整形 | 2.0 h | 90 | 1.8 h | 後回し |
| 見積書の転記と送付 | 32.2 h | 85 | 27.4 h | 最優先 |
| 機能実装 | 29.6 h | 60 | 17.8 h | 次点 |
| 顧客との商談 | 38.0 h | 24 | 9.1 h | 対象外(減らすべきでない) |
スコアだけを見れば議事録の整形(90)が最上位ですが、実際に削減できるのは月1.8時間です。一方、見積書の転記はスコアで劣るものの、27時間の削減が視野に入ります。この判断には、業務ごとの実測時間が不可欠です。時間が分からないまま「AIに向いていそうな業務」から着手すると、労力の割に効果が出ません。
実測の取り方は業務棚卸しの進め方を、削減時間を金額に換算する手順はAI導入のROIを測る方法をご覧ください。